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『東ティモールを知るための50章』

東ティモールを知るための50章

ポルトガル、日本そしてインドネシアによる侵略・支配の歴史を経て、ようやく独立を果たした21世紀最初の独立国、東ティモール。国連による統治でつかの間の平和を見たものの、2006年春、再び混迷を深めたこの国の将来を探る。

山田満(編)、明石書店 2006年8月




目次

はじめに
1 歴 史
 第1章 白檀をめぐるティモールのおいたち――東ティモールのなりたち
 第2章 近代ナショナリズムと「植民地」支配――ポルトガル時代の東ティモール
 第3章 大国のはざまで――日本占領下の東ティモール
 第4章 性暴力被害者たちの60年――日本軍慰安婦問題
 第5章 ポルトガルでもインドネシアでもなく――民族主義運動と非植民地化
 第6章 独立前夜の混乱――住民投票と騒乱
 第7章 新国家の誕生と国連――国連暫定統治期
2 紛争後の平和構築
 第8章 国防軍や警察が政争の具とならないために――治安秩序の安定を目指した国の警備
 第9章 この国のかたちを決めよう!――東ティモール人自身の国家を目指した選挙
 第10章 私たちの国家像――東ティモール民主化の主役は誰か
 第11章 独立紛争から平和構築へ――法制度構築・国づくりの視点を中心にして
 第12章 すべてを明るみにだせるか――紛争後の正義と真実和解
 第13章 戦争犯罪者か難民か――未解決の「難民」問題
 第14章 元兵士たちの明日なき戦後――東ティモールの除隊兵士問題
 第15章 自由のために闘ったすべての国民に敬意を――RESPECT事業と復員兵士、雇用、復興開発
3 政治・経済
 第16章 多言語の下での「国民」形成――21世紀最初の独立国家の国民統合問題
 第17章 新世代と旧世代の対立か、融和か――国内政治の現状
 第18章 拡大する中央と地方の経済格差――地方分権
 第19章 一〇〇万人国家の経済運営――どのような経済発展を目指すのか
 第20章 持続的経済成長と貧困削減を目指す――新国家建設のための経済政策とは
 第21章 新国家の台所事情は?――財政構造問題
 第22章 経済的に自立するためには――どのような産業があるのか? 可能か?
 第23章 経済発展のためのカンフル剤となるか?――外国からの投資はどのくらい?
 第24章 農業の現実と展望――新国家の基幹産業はやはり農業か
 第25章 蘇れ緑の島に――なぜ植林をするのか
 第26章 コーヒー立国――美味しい東ティモールコーヒーを目指して
 第27章 持続可能な漁業を目指す――東ティモールは魚の宝庫?
 第28章 援助を超えて――共生・自立の地域づくり
4 社会・医療
 第29章 東ティモールはベビーブーム?――保健指標から垣間見る人びとの健康状況
 第30章 保健所の仕事!――よくある病気とその対策
 第31章 野菜より高い新聞――東ティモールのメディアのがんばり
 第32章 包括的な支援の必要――国際NGOの取り組み
 第33章 草の根グループからの民主化運動――市民社会を支えるNGOフォーラム
 第34章 憲法にも謳われる「環境」――紛争後の環境問題
 第35章 男女平等への歩み――ジェンダー問題への取り組み
 第36章 東ティモールの将来の担い手たち――青年たちの活動
 第37章 独立後の急激な変化による交通事故の増加――東ティモールの交通事情
5 教育・宗教・文化
 第38章 教育の充実を求めた取り組み――新生国家建設を支える教育制度
 第39章 エリート養成機関には程遠い大学に通う学生たち――人材養成が急務の高等教育機関と不十分な教育インフラ
 第40章 軽んじ見られた公用語――テトゥン語
 第41章 “民衆の権利を守る砦”であり続けられるか――アジア最大のカトリック国の宗教事情
 第42章 人生を表現する踊り――ダンスパーティーと音楽
 第43章 土着文化とキリスト教文化――東ティモールの死生観
6 国際関係
 第44章 怨念と不信と反感と――24年間の支配国インドネシアとの関係
 第45章 ASEANをモデルにした産業発展を目指して――ASEAN加盟を目指す東ティモール政府
 第46章 国際社会の仲間入りをする東ティモール――対国際機関
 第47章 東ティモールと日本――日本政府の「国づくり」支援:これまでとこれから
 第48章 ひとまずは、痛み分け――石油・天然ガス収入をめぐるオーストラリアとの駆け引き
 第49章 石油資源戦略との駆け引き――アジアの大国・中国との関係
 第50章 東ティモールとポルトガル語圏諸国――国際的連帯と国内の乖離
参考文献

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「はじめに」より

 二〇〇六年四月下旬から東ティモールの政治社会状況は混迷を深め、遂にメディアに登場する東ティモールの状況は、内戦さながらの市街戦の映像に変わり、首相が辞職する政変にまで発展した。筆者が代表を務めるNGOの駐在員も、JICA(国際協力機構)など援助関係者とともに治安悪化を理由に同国から退避する結果になった。九九年八月の直接住民投票後の騒乱以後、多大な額と人的支援を行ってきた国際社会、日本政府、さらにはNGOなどの援助関係者、いうまでもなく本書執筆者を含めて落胆は大きいに違いない。そして何よりも出国する外国人をまたしても見送らざるを得なかった一般国民の恐怖の再燃と無念、権力闘争に明け暮れる人びとへの怒りの気持ちは想像に難くない。
 エリア・スタディーズの一冊として上梓される本書の「はじめに」を冒頭のような書き出しではじめざるを得ないのが残念である。とはいえ、読者の方々には簡単に今回の騒乱に関する政治社会状況の分析を提供しておきたい。東ティモールの政治社会には、今回の警察を巻き込んだ国防軍内部の東西の地域対立以外にも、独立運動に関わった年代を背景にした世代間の対立、インドネシア占領下で国内に留まって抵抗したグループと旧ポルトガル植民地など海外に亡命したグループとの対立などいくつかの対立軸が存在している。それゆえ、今回の西部地区出身の国防軍兵士が主張する東西の地域差別だけがことさら大きな問題であったとはいえない。むしろこの国防軍の地域対立を権力者たちによる「捏造」であると、一〇県の住民代表が共同宣言を行っているほどだ。
 今回の騒乱の背景には、非民主的な強権政治を強めたアルカティリ政権に対する内外からの反発と圧力、アルカティリが実権を握るフレティリン内部の権力闘争、雇用がない元兵士と若者たちの不満のうっ積などが考えられる。そして、来年の総選挙・大統領選挙に向けた選挙法の策定作業を背景に、各政党、市民社会、教会などの思惑が交錯し、しかも同時期の国連の撤退と重なり、ちょうど政治社会が不安定化するなかで起きたと考えられる。
 東ティモールの政治権力構造は、独立運動の最高指導者であるグスマン、著名な外交官でノーベル平和賞受賞者のホルタ、圧倒的議席数を背景に国会を牛耳るフレティリン幹事長のアルカティリのトライアングルの関係で成り立っている。これら三人は東ティモールを導くトロイカではなくむしろライバルの関係にある。しかし、独立後はフレティリンの一党支配体制とともにアルカティリの権力が強化され、三人の権力バランスが崩れかけていた。例えば、今回の騒乱に関するアルカティリ政権の関与についての証言が次々に出ている一方で、首相の解任は、非常大権を握った大統領でさえも、憲法の規定によって議会の承認がない限り不可能であった。その意味で、結局フレティリンが支配する議会ではアルカティリの辞任はあり得ない状況であった。
 しかし、今回グスマンは大統領職の進退をかけて内外の世論を味方につけ、首相の交代を与党フレティリンに迫る捨て身の戦略をとった。それを受けて開催されたフレティリンの中央委員会の結論はやはりアルカティリの続投であった。ホルタはすぐさま抗議の意思表示を行う意味で、外相兼国防相の辞意を表明した。また複数の大臣も行動を共にした。こうしたグスマンとホルタのアルカティリ包囲網に呼応するように、大規模な反政府、反アルカティリ・デモが連日行われた。その結果、六月二六日にアルカティリは自ら辞表を大統領に提出せざるを得ない状況になった。
 グスマンは七月八日にホルタを暫定首相に指名し、ホルタは一四日に数名の新閣僚を含む暫定内閣を発表した。同内閣の最大の使命は一五万人といわれる国内避難民を安定した政治社会状況のなかで、帰還させることである。当然今回の騒乱で被害にあった人びとへの補償は政府の果たす責務となる。しかし他方で、アルカティリおよび与党フレティリンの影響力は依然として強い。その結果、東ティモールの政治社会状況は、来年五月予定の総選挙と大統領選挙に向けての政党再編を含んだ次の権力闘争の段階に入ったと考えられよう。
 平和構築の成功事例となるはずだった東ティモールが、今回の騒乱によって、いまだ脆弱国家であることがわかった。それゆえ、国連・国際社会のプレゼンス低下は、紛争の再発を放置するに等しいといえよう。そこで、まずは来年五月予定の総選挙と大統領選挙が、「自由で公正な選挙」として実施されることを保障しなければならない。次に、多くの問題を残した国防軍・警察の再編を含む安全保障部門改革(SSR)の再考を促すことである。そして、雇用を吸収する産業が育っていない現状では、元兵士の社会復帰問題は依然解決されておらず、日本政府が支援した元兵士を含めた社会的弱者のための雇用を創出するプロジェクト(RESPECT)の継続が、さらに若い世代の雇用対策も含めた形で求められている。しかもそれは東ティモール人自身のオーナシップに基づいた支援形態に改められるべきである。
 国連開発計画が発表した二〇〇六年版『東ティモール 人間開発報告書』では、独立四年目を迎える東ティモールは一〇年前の生活よりもさらに貧しくなっていると指摘している。しかしその一方で、前政権にみられた汚職、癒着、縁故主義が社会に蔓延化している。このような東ティモールの政治社会状況を改善するために、日本政府には現地で活動を展開するNGO(非政府組織)とともに長期にわたる平和構築支援を期待したい。

 今回の騒乱はちょうど本書の初校を終え、各執筆者に再校をお願いする時期に起きた。一部書き直しも必要になると思い、改めて各執筆者の原稿を精読したが、ほとんどその必要性が感じられなかった。各執筆者の同国に対する冷静な分析と考察の証左と思われる。長年「東ティモールの独立」をめぐる問題に関わってこられた方々、紛争後の平和構築に関わってこられた方々の真摯で確かな視点が本書の各章で展開されている。このような方々に執筆をしていただき改めて安堵している。と同時に、各執筆者に対して心よりお礼を申し上げたい。

二〇〇六年七月
編 者

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