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■2002年東ティモール大統領選挙

東ティモール大統領選挙監視リポート

玉木智宏(東海大学大学院政治学研究科博士課程前期)

「変わった。」それが到着直後の感想だった。私が東ティモールを訪れるのは今回で二度目。昨年夏でさえ状況は安定していたのだが、今回の渡航でまず何よりも驚いたのは中心都市ディリの劇的ともいうべき発展だった。到着日にディリ郊外のコモロ空港から市内へ向かう車窓の風景が昨年夏とは一変していた。大通りに面した建物は、新築、あるいは改築が進んでおり外国企業の事務所などを見かけることもでき、倒壊、焼失したまま残されている建物を探すほうが難しかった。市内ではゴミが格段に減少しており、街は整然としていた。ただ、一歩路地に入ると倒壊家屋やごみを山のように積んでいる。街の状況が良くなったとはいえ、人々の生活レベルは向上した人と相変わらずの人がいるようだ。

コモロ市場で新鮮な野菜を売る人々(ディリ)

職の増加も街の変化を感じた要因の一つだった。板金加工や家具製作の町工場で働く人々の姿を見ることができたが、特に印象深かったのは、東ティモール人警察官とタクシードライバーの急増だった。昨年の渡航の際にも東ティモール人警察官の姿を目にすることはできたのだが、せいぜい交通整理の任務を行なっているぐらいで、その存在は外国人の文民警察の陰に隠れているという印象だった。車両の増加のためかもしれないが、交通整理の様子がこれまで以上に目立ち、街を巡回する東ティモール人警察官の姿を至るところで見ることができた。ディリ市内を走るタクシーの急増は、コモロ空港でエアポートタクシーの存在を目にしてから気づいた。空港から市内までは5ドルらしくどんなに粘っても安くはならない。その一方で市内を走るタクシーは、1ドルからという値段設定で、昨年の渡航の際に必死に値段交渉をしてヒッチハイクをしたことが懐かしく感じられた。

私がインターバンドの選挙監視活動に参加するのは、昨年8月の東ティモール憲法制定議会選挙、今年2月のカンボジア地方議会選挙に続いて三度目である。私が参加した過去二回の選挙監視活動はタイの民主化支援NGOであるANFRELのコーディネートの下で活動したが、今回はインターバンドが独自チームを編成して監視活動を行なった。このことは独自性を発揮する良い機会であり、今後のインターバンドとしての監視活動のスタイルをある程度形作ったと思っている。

教会と記念碑(スアイ)

今回の大統領選挙監視活動において、私は南部のコバリマ県でスアイを中心に監視した。1999年の住民投票後の騒乱で、多数の犠牲者が出た地域でもある。今はスアイの教会に虐殺事件発生の記念碑が立っているのを目にする程度で今回の活動中にその他の虐殺跡を見ることはできなかったが、資料などから推測する限りにおいてもそのすさまじさがわかる。しかしその一方で自然の素晴らしさを再認識させられた。スアイまではディリから車で8時間ほどかけて東ティモールの中で最も高い山々を越えて行く。昨年アイナロ県とマヌファヒ県を監視した際に山間部の風景を目の当たりにし感動したのだが、今回は時期が雨季から乾季への変わり目で同じ道のいたるところに草花が咲いていて、なんとも言えない色彩のコントラストを形成していた。今年1月にシャナナ・グスマオが日本へ来た際、沖縄の観光開発にかなりの興味を示したと新聞報道されていた。私は沖縄へ行ったことがないので比較はできないが、イメージは何となく似ている。海は真っ青で、先述のように山も美しい。今はインフラ整備が遅れていて外国人観光客が観光するには少々難しいところがあるが、国際社会からの援助でそういった面も発達することが望まれる。東ティモールを知ってもらうということにおいても重要だろう。そういえば、出入国カードの渡航目的のチェック欄に「休暇」が加わっていた。前回はなかったと思う。観光客自体は前回も目にすることができたが、観光客が少し増えたのだろうか。ちなみに、スアイの海にはワニがいるらしいが残念ながらお目にかかることができなかった。

シャナナ・グスマオ氏

大統領選挙自体は独立運動の指導者であるシャナナ・グスマオの当選が確実視されていたため、選挙結果よりも最大与党のフレテリンがこの選挙にどういった対応をするのか、そしてそれが結果にどう影響するのか注目していた。制憲議会選挙で圧勝したフレテリンがシャナナへの不支持を決めても、シャナナの人気が圧倒的だったため圧勝という状勢が動くことはなかった。しかしこの結果は今後の東ティモール政治に影響を及ぼす可能性がある。シャナナは80%以上の得票で圧勝したが、政治が成熟していない現在の状況では選挙が単なる人気投票となっている。それは仕方のないことだが、多くの人々にとってシャナナ・グスマンは独立運動のシンボル的存在であり、シャナナが大統領になることは希望どおりで満足かもしれない。ただ、UNTAET解散後の社会問題の発生が想定される状況で、フレテリンが実権を握っている議会と対立することで政治の混乱が起こるようなことになると機能不全に陥りかねない。それゆえに、シャナナの政治指導者としてのリーダーシップが試されるわけであり、国際社会が東ティモール独立後に対して経済面以外にも関心を持ち続け、協力する姿勢が重要であろう。

制憲議会選挙の時、私は政党事務所よりも一般の人々が集う場所、例えばマーケットなどを回ってインタビューをした。そうすると選挙委員会でのインタビューとは違う情報を得ることができるのだ。ある老人に憲法について聞いたら、「憲法なんて知らない」という返事が返ってきたことがあった。また「制憲議会選挙は投票に行かないが大統領選挙は投票に行く」という人もいた。今回はインタビューをする機会があまりなかったが、車内から人々の様子を見たり、投票日前にいくつかの投票所を訪れたりして雰囲気を感じるように努めた。しかし選挙自体は盛り上がりに欠けていた。ディリですら選挙キャンペーン期間中であることを示すものがなかったから当然なのかもしれない。

Viva! Timor Lorosa’e

今回の大統領選挙では、制憲議会選挙で我々が問題視した点の多くが改善されていた。例えば、有権者登録をした人はどの投票所でも投票できるようになっていたこと、登録確認の方法、投票を待つ人々の列の整列である。また多くの東ティモール人警察が投票所の警備をし、東ティモール人の選挙スタッフが主体的に働き、開票作業もしていた点もそうだ。我々の監視活動とその後の議論がこういった結果を生み出したと信じたい。今回の大統領選挙においてシャナナの対立候補であったフランシスコ・ザビエル・ド・アマラルはシャナナが当選することを承知の上で「民主主義のため」に立候補したという。民主的な選挙が民主主義を根付かせ、結果的にその国全体を発展させていく出発点となるならば、極めて重要な意味を持つ。東ティモールの民主主義は築き始められたばかりだ。その中で我々が選挙監視をし、その後の東ティモールを見続けたいと思うのは、東ティモール人の気持ちを考えてしまうからである。客観的に選挙監視の必要性を説くことは経験を積んでいけば比較的簡単かもしれないが、実際に私は、昨年の監視で東ティモールのために何かをしたいと思い、今回の監視で何かをしなければならないと思うようになった。そういうものなのだ。選挙監視がゆっくりではあるけれど民主主義を着実に構築するための一助となり、さらなる発展のきっかけとなるなら、それは私にとっての喜びであり続けていく価値があるものだと思う。

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