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■2002年東ティモール大統領選挙

東ティモール選挙監視を振り返って

古村哲夫(在韓日本大使館専門調査員:韓国内政担当)

1.初めに

国際選挙監視団の監視の下で行われた東ティモールの大統領選挙は、予想以上に安定した状況の中で行われたように思われる。今回の大統領選挙は、既に有力候補であるグスマン氏の当選が確実と言われていたこと、大統領の権限が限られていること等により、選挙としての実質的な意味合いは前回の制憲議会選挙、そして前々回の住民投票ほどではなかったと言える。しかし、逆に独立に向け国民の団結を促したという点でより大きな象徴的な意味を持っていたのではないか考える。実際の選挙の様子に触れつつ、今回の活動で感じたことをまとめてみた。

2.選挙の様子

選挙監視を通じでまず感じたのは、当選したグスマン氏の場合、選挙活動、選挙運動においても圧倒的な優位を占めていたのに比べ、対立候補陣営は広報、企画等の選挙戦略の面でかなりの遅れをとっていたということである。このような差が選挙の最終的な結果にも少なからぬ影響を及ぼしたものと思われる。

街には有力候補のシャナナ・グスマン氏のポスターが至る所に張られていたのに比べ、対立候補であるザビエル氏のポスターはほとんど見受けられなかった。ザビエル氏を大統領候補として推薦しているフレテリンとADSTの垂れ幕等が多少見られた程度であった。

その他にザビエル候補陣営の支持者等による街頭行進があり、候補の写真と推薦政党のロゴが掲載されているプラカードを持つ者を先頭に伝統的な民族衣装を纏った支持者の列が続いた。支持者等は太鼓等の楽器も演奏していたが、それ以外には特に候補の名前を叫んだりはせず、比較的静かな様子であった。ザビエル氏の選挙事務所付近に行列が差し掛かると人々が次第に集まって道路も一部統制される等、盛り上がりを見せ、ザビエル氏の顔の描かれたTシャツを着ていた者も数名見られる等、ようやく選挙運動らしさが感じられた。しかし、マイクロホン等を使用して喧しく行われる日本の選挙運動に比べると随分とおとなしいものであった。

グスマン氏の街頭演説を二回ほど見る機会があったが、楽器等の立ち並ぶ立派な舞台の上で行われ聴衆もかなり集まる等、かなりの盛り上がりを見せ、大多数の国民の支持を得ていることが実感できた。グスマン氏の場合、首都ディリでも演説が活発に行われていたが、ザビエル氏の演説は地方で行われることが多く、残念ながら我々監視団も演説を見ることはできなかった。

候補者同士の討論会もディリ大学で行われた。我々は、当日会場に向かったものの、討論会場が非常に狭く、かつ大学生と思われる観衆が大勢いたため会場の中に入るのはかなり困難で、結局近くの教室でTVを通じて見ることにした。内容はテトゥン語であったためほとんど分からなかったが、このような公開討論会が開かれ、独立後の国家運営について話し合われること自体素晴らしいことであると思う。

選挙当日は朝から好天に恵まれた上に、大きな混乱もなく淡々と投票が行われ、予想していた以上に静かな選挙であった。投票に来ている住民の顔からも笑顔が見受けられ、住民投票の際の緊張感等はまったく感じられなかった。

我々は、首都ディリで1ヶ所とその近郊のリキサの投票所を数ヶ所訪れたが、一ヶ所を除き投票しに来ていた人の数はそれほど多くなかった。朝7時の投票開始前に投票所に行って待機したが、一般投票の開始前に投票をすることになっている選挙業務に携わる現地人の投票者が並んでいただけで、一般の有権者の姿はそれほど多く見られなかった。そのため投票率がかなり低くなるのではと心配をしたが、結局、最終的に投票率が85%を超え、前回の制憲議会選挙と比べると多少低いものの、かなり高い数字となり、投票率が低くなるだろうとの心配は無用のものとなり、ほっとした。

現地の人によると、これは選挙当日が日曜日で一般の市民等は礼拝を行うためとのことで、礼拝を済ませたあとに皆投票に向かったそうである。実際リキサの街の中心部を午前10時過ぎに訪れた時にはかなり列を成していたのはこのためであろう。

投票の際には、投票用紙を間違えた所に入れようとしたり、どの候補にも印をしないでそのまま投票用紙を投票箱に入れようとする者等、投票に慣れない者が多少見受けられたものの、全体としては大きな問題はなかったようである。

投票が無事に終わって開票が行われたが、全体的に開票も順調に行われたようであった。しかし、日程の都合上、我々は最終的な開票結果が出るまで開票作業に立ち会うことができず、多少残念であった。

なお選挙期間中、一部の地域でザビエル候補陣営が投票を妨害するために投票の仕方に関する虚偽の情報を流しているとの説もあった。この情報とは、有権者に対し投票の際に両方の候補に印をつけても両候補に票が加算されるというもので、このような場合、投票用紙はもちろん無効処理されることになる。しかし、懸念されていたほどの影響はなく、実際に全体の票に占める無効票の割合はわずか数パーセントに過ぎなかった。

3.感 想

始めて来た東ティモールであったが、今回その国土の美しさに魅了され、独立後に再び訪れてみたいと思うほどであった。住民の虐殺等の暗い過去を持つとは思えない程に人々の表情が明るいのも印象的だった。長い植民地支配の歴史を持つ東ティモールの住民が我々外国人に対しても至って好意的であったように思える。選挙自体について言えば、投票前の選挙運動、投票、開票作業が非常に順調に行われ、選挙監視という面からは多少拍子抜けする部分もあったが、問題がないのがむしろ当たり前のことで、我々としては歓迎すべきことである。

一つ感じたのは、効率的な選挙監視活動を行う上で正確な情報の入手が非常に大切であると言うことである。場所や時間といった選挙と関連したイベント情報等をきちんと把握していなければ、選挙監視活動を行うこと自体が困難になってしまうことになる。今回の場合も様々な人々からそれぞれ異なる情報を入手したため、情報が錯綜した状態になっていた。その点で、選挙を管理するUNDPやEUの監視団等、選挙監視活動を行っている者同士のコミュニケーションを今後より密にしていく必要があると考える。

また今回の選挙で最も印象に残ったのは、投票日当日に両候補が同時に投票上に現れて投票を行ったことであった。両者は手と手を取り合って投票所に入り、投票を行った後にも握手をする等の演出を我々に見せてくれた。この様子を見ながら私は、今回の投票が単に国民の代表である大統領を選ぶものでなく、誰が大統領になるにせよ今後一つになって国の発展に努力していくという両者の、或いは東ティモールの人々の強い意思を感じることができた。この国家の団結というのが今回の選挙の持つ真の意味であったかもしれない。

独立を目前に控えた東ティモールの将来は、決して明るいものではない。独立を契機に国連等から派遣されてきている外国の人々の存在も少なくなることから、既に失業問題等が懸念されている。しかし、団結して国家の発展を目指そうという人々の意気込みを今回感じることができ、多少の安堵感を覚えた。今後東ティモールが植民地支配の傷を癒して発展していくことを心から願っている。最後に、今回独立前という貴重な時期にこのような素晴らしいプログラムに参加させていただく機会を与えてくれたインターバンドに感謝の意を表したい。

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