INTERBAND

For Peace-Building&Democratization


■2003年カンボジア総選挙監視活動

カンボジア2003年国民議会議員選挙監視ミッション報告

小川雅代(株式会社シネックス)

2003年7月27日、カンボジアは国民議会議員(下院)選挙をむかえた。今回の選挙は、5年間の任期満了に先立ち123 名の新国会議員を選出するために実施された、カンボジアで第3回目の国会議員選挙であった。今回の総選挙におい て、私は、日本の非政府組織(NGO)「インターバンド」を通して、アジアの民主化を推進するNGO「ANFREL(Asian Network for Free Election)」の一員として、選挙監視ミッションに参加した。人口の大部分が農業、漁業に従事しており 、現在政権を握っているフン・セン首相率いるカンボジア人民党(CPP)が圧倒的支持を得ているコンポンチュナン州( Kampong Chhnang)(*1) に派遣され、監視活動に従事することとなった。今回の選挙監視ミッションを通じて、選挙を監 視するとはどういうことか考える機会に恵まれた。以下、NGOの一員として選挙監視活動の役割をどのように捉えるの かという視点から、活動をふりかえってみたい。

公正な選挙・投票とは、「国民・市民が社会の意思決定過程に参加するための具体的な手段の一つ」(*2)であり、当該 国の民主化が進むための必須の条件とされている。選挙監視活動は、選挙の公正な執行を確保するために行われる。 選挙の公正さが証明されることにより、選ばれた政権は、国内および国際社会から政治的正統性を得ることが可能とな る。

選挙監視は、カンボジアの、および国際的な監視団によって行われた。国家選挙管理委員会(NEC) レン・ソチア スポ ークスマンによると、国際監視員633名及び国内監視員28,700名が今回の選挙の監視員としてNECに登録を行った。 選挙監視員には、一箇所の投票所において全体のプロセスを監視するタイプと、複数の投票所をまわり、投票所内だけ でなく、投票所周辺の環境にて違法行為が行われてないかどうか監視するタイプがある。前者の多くは国内監視員が、 後者の多くは国際監視員が担っていた。

具体的なミッションでの主な活動は、各投票所、開票所において、投票・集計作業に立会い、投票が正しく行われてい るか、開票・集計が公正に行われているか、投票所周辺の環境は公正なものであるか監視し、報告することであった。 選挙監視は選挙当日の監視だけでなく、選挙運動期間中の選挙キャンペーンの視察、選挙管理委員会、現地NGO等 へのインタビュー、選挙がらみの殺人事件の調査等にも及んだ(詳しくは、日程一覧を参照)。

実際にコンポンチュナン州の10箇所の投票所をまわり感じたことは、些細な過失は認められたが、投票所内でのプロセ スは、比較的適切なものであったと思われる。投票所の多くのスタッフは、選挙を経験している者が多く、選挙慣れして いる面もあった。また、各政党監視員、現地NGO(*3) からの国内監視員が投票・開票を監視していた。投票箱には個 別の番号がついたタグもつけられており、投票後の不正は困難であったという印象を受けた。ある投票所のチーフが有 権者に対して必要以上に関与しているという面も見受けられたが、投票所内以上に、投票所の周辺では、違法行為が 行われているという印象を受けた。ある投票所では、村長が投票所の外に朝からずっといて、村民が投票にきたかどう かチェックを行っていた。どの政党に票を入れるか指示をしていたと思われる節もあったが、断定はできなかった。しかし 、少なくとも、何らかの形で有権者の投票行動に影響を及ぼす行為であったと考えられる。投票所内でのプロセスにお いては、比較的適切であったが、有権者の投票行動に対してどこまで「自由で公正な選挙」であったかは疑問が残った 。

国際選挙監視員として活動に参加して、自分の行動が予想以上に周囲に影響を与えるということを認識した。そのこと から考えされられた点をここであげておきたい。第一点は、外部からの人間の存在の大きさである。今回の総選挙は、 カンボジア国民自身が主役なのだが、それでも外部からの存在は、特に農村地域に対して、何らかのの影響を与えた といえるだろう。投票所の周辺に、有権者に影響を与えていそうな男性を見つけたとき、ミッションをともにした現地の通 訳は、「自分には出来ないが、あなた(国際監視員)には出来ることがある」と言った。そのとき改めて自分は外部の者 であり、そこにおいて自分が期待されている役割を認識した。その土地で生活を営んでいる者では、違法行為があった としても見て見ぬふりをしなければならない状況においても、外部からの国際監視員になら、状況を確認しようと動ける 可能性がある。実際、違法行為の抑制がどれだけかかったかは、測定できなかったが、何らかの心理的影響があり、 そこに私たちの存在意義があったのだと考える。

第二点は、国際監視員は常に客観的で中立であるべきということである。選挙はカンボジア国民がオーナーシップをも っているものであり、国際監視員は選挙プロセスには介入しない。選挙法に抵触した場合、当該問題について質問はで きるが、指摘はできない。国際監視員の任務はあくまでもプロセスが公正に行われているかどうか監視することであり、 それを書面にて報告することにある。政治的中立性を保ち、独立であるからこそ、選挙プロセスにおいて有権者にポジ ティブな影響を与えることができるのだが、この客観性を保つということは、非常に難しいことだと実感した。

今回私は、短期選挙監視員(STO)としてこのミッションに参加したが、そこで今後のミッションにおいて、特に重要であ ると思われる二点について以下にまとめた。

1.包括的な選挙支援の取り組み。

選挙監視においては、選挙日直前だけではなく、長期的な期間で監視にあたる長期監視員(LTO)(*4) が今後ますま す重要視されるであろう。それは、選挙妨害が投票日だけでなく、選挙運動期間中といった長いスパンで行われている からである。また、選挙後のフォローアップも必要となってくる。選挙に敗れた政党が選挙結果を受け入れるかどうかと いう点も非常に重要であり、その点でEUが選挙後にも監視を続けていたということは非常に興味深い点だった。

2.有権者教育の重要性。

今回の選挙では投票率は、全国で82%(*5) と、1998年総選挙よりも低いものだった。この投票率の減少は、選挙登録 の不備等(*6) があったようだが、それ以外にも、投票を行っても、結局は何も変わるわけではないという一種のあきら めが人々に芽生え始めたことも関係してきているのではなかろうか。アジア財団の調査(*7) によると、多くの人々は、 選挙はリーダーを選び出す手段と認識していた。しかし、選挙は、政策に民意を反映させる機会を提供するものであり、 国家の方向性を変更するものであると考えているカンボジア国民はほとんどいなかった。選挙登録の方法、投票用紙の 記入方法を徹底することも重要であるが、選挙の意義や投票の重要性という基本的な理念の教育がますます必要とな るだろう。

選挙は国民・市民に政治に参加する機会を提供するものであり、国家の民主化には必須とされている。また、公正な選 挙を行うことにより、国際社会からも信用をえることができるといった意味において、公正な選挙が行われることは重要 なことである。そして一方では、有権者の投票行動に心理的に影響を及ぼし、違法行為の抑止力になっているというこ とに国際監視員の存在意義を覚えながらも、他方では、国際社会からの監視があるから公正な選挙が行われるという 前提の上に、監視員の活動があるようにも思え、自分の中に矛盾が生じた。現地にて「前々回、前回の選挙と比較する と、暴力事件は少なくなり、選挙環境は良くなってきている」という声を多く耳にした。事実、多くの監視団体が、前回の 選挙に比べて、適切な選挙であったと声明を発表している。しかし、監視を行ったからといって、違法行為がなくなるとい うわけではない。また、一国の選挙監視をいつまで続けていくのかということも疑問に残った。5年後のカンボジア総選 挙時には、選挙監視ミッションを行うのだろうか?10年後の総選挙は? 行う、行わないの判断は何をもってするのだ ろうか?これらの問いかけに、今の自分はまだ答えることが出来ないかもしれないが、現地での通訳が最後に言った 言葉、「Don’t forget us!」を胸に、毎日の雑多の中に没頭しないよう、日本人として自分ができることを考えていきたい と思う。


カンボジア選挙監視ミッション日程表
7月20日 プノンペン着
7月21日‐22日 ブリーフィング(選挙制度、政治情勢、選挙法等についての講義)
7月23日 コンポンスプー州
*インターバンド事務所訪問、現地スタッフから話を聞く
*COMFEL訪問、選挙状況等の説明を受ける
*第3副知事と面会
7月24日 コンポンチュナン州
*街頭での選挙キャンペーン視察:チャックラポン党
*現地NGO, LICADHO訪問
*刑務所訪問
*現地NGO, ADHOCスタッフから、選挙がらみの殺人事件に関して聞き取り調査を実施
7月25日 *街頭での選挙キャンペーン視察:カンボジア人民党(CPP)
*PEC(州選挙委員会)訪問
*現地NGO,ADHOC訪問
*現地NGO, CCHER スタッフから、主に選挙がらみの殺人事件に関して聞き取り調査実施
*川見学(選挙監視場所の候補として視察、実際にボートに乗る)
*街頭での選挙キャンペーン視察:サム・ランシー党(SRP)
*他監視団とのコーディネーション・ミィーティング(アジア財団, EU, IRI, NICFEC, US Embassy)
7月26日 投票所ルート確認
Rolea Beirデストリクト
Pongror コミュ-ン(投票所7箇所)
Bantay Preal コミューン(投票所4箇所)合計11箇所視察
7月27日 投票日
投票所の監視、一箇所の投票所に約15分滞在。合計10箇所視察
7月28日 開票日 Bantay Prealコミューンにて開票所の監視 コンポンチュナン発 (プノンペン発、筆者は帰国)
7月29日 デ・ブリーフィング

(*1)コンポンチュナン州
  人口:423,046人(有権者228、296万人うち登録人数 222,276人、97.36%)
  今回の投票数:186,846票 投票率:84.06% 総議席数4(CPP=3, FUN=1) (暫定開票結果)
  政党別得票率: CPP=56.60%, FUNCINPEC=18.60%, SRP=12.85% (暫定開票結果)
  国家選挙管理委員会HP:http://www.necelect.org.kh :COMFEL統計 (総議席数のみ)

(*2) 「事業戦略調査研究 平和構築 -人間の安全保障の確保に向けて- 報告書 第2部JICA平和構築ガイドライン 集」国際協力事業団・国際協力総合研究所、2001年4月 p.16

(*3) ANFRELが提供している現地NGO, COMFREL( The Committee for Free and Fair Elections in Cambodia)は、全国12,824の投票所全てに監視員を配置した。

(*4)ANFRELからは、10名、アジア財団からは、15名、EUからは36名のLTOが派遣された。

(*5)NECによる暫定開票結果より参照

(*6)COMFELも投開票を終えての第一印象にて、選挙登録及び情報伝達に問題があったと意見表明している。

(*7)「Democracy in Cambodia-2003 - A Survey of the Cambodian Electorate」The Asia Foundation, May 2003

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